
物語
この一冊で待つもの
市の記録保管係であるリースベット・マースは、街の「未解決の案件」を整理する術を熟知していた。だが、予算削減の命令をきっかけに、忘れ去られた地下の保管庫へと足を踏み入れる。そこに眠っていたのは、書かれ、宛名が記され、切手まで貼られながらも、決して届けられることのなかった手紙の山――すべては廃棄処分される手はずになっていた。
リースベットは一通の手紙を手に取り、最後に記録された住所を訪ねて、それを声に出して読み上げた。言葉は雨に煙る運河を越え、何十年もの間、その言葉を欠いたまま生きてきた家族の心へと染み込んでいく。やがて、ヘントの街のあちこちへ「謝罪」を届け始める。シャッターの閉まったパン屋、ホスピスの一室、そして、他人の沈黙を不本意にも引き継いでしまった人々のもとへと。
だが、見知らぬ者の声を借りたとき、後悔は形を変える。リースベットの「配達」がニュースになり、訴訟や模倣者、そして切実な依頼を呼び込むにつれ、あの保管庫は世間の争いの渦中へと巻き込まれていく。そして、ある一通の朗読が、いかに緻密な整理をもってしても修復不可能な傷を負わせることになる。
保管庫の廃棄処分が数日後に迫るなか、リースベットは決断を迫られる。どの言葉が他人に届けられるべきで、どれが封印されたままにされるべきなのか。そして、間違ったタイミングで、間違った人物によって届けられた謝罪に、果たして意味はあるのだろうか。
街の「未完の真実」を届けるためにすべてを賭けるリースベットの自宅には、一通の封印された手紙が遺されていた。それこそが、どうしても口にする勇気を持てなかった、唯一の「詫び状」だった。
後悔と倫理を踏み越える行為、そして「真実を書くこと」と「それを届けること」の間に横たわる危うい距離を描く、雨の光に満ちた文学小説。
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作品情報
- シリーズ
- 〈来歴〉シリーズ
- 入手状況
- 制作中
- 言語
- 日本語
- 出版社
- LPH98.lifestyle
- 著者
- L.P.H. Nordhaven
- 読む順番
- 一冊で完結する小説


