マレンは外套を脱がずに自分の持ち場へ渡り、名札の下の鉤に鞄を掛け、最初の書類挟みを開いた。
十一C分岐。六十二歳の女性で、その分岐で息子を葬っていた。彼女は葬儀のあとの九か月を、息子が生きているあいだ一度も言わなかった一文を組み立てることに費やした。結婚式の招待客の名簿をめぐる言い争いは、一度も名簿についてのものではなかった、という一文を。マレンはその様式を一度読んだ。照合。写真の一致、受取人は存命、分岐の表記は判読可能。彼女は「受領」を押し、発送の山に置いた。
二つ目の書類挟み。四E分岐。ある男が、かつての同僚に、二〇〇九年に自分が取った企画の功績と、その後十一年悔いてきたことについて書いていた。詫びが届く前に彼女が死んだ分岐で。押印、それから山へ。
マレンは、ハルストロムの導入のたいていを自分の中を通過させるのと同じやり方で、その数字を通過させた。傘なしで歩き抜けることを覚えた一種の天候として。隣ではティージェイが何もかもを書き留めていた。円グラフも含めて。それは実際に単数で、実際に前期と同じもので、その形について何も変えない二パーセント分だけ再配分されていた。
それからハルストロムの声の音域が変わった。大きくではない。より狭く。扉の前で廊下が狭まるやり方で。そして部屋もそれとともに狭まった。
「この訓話の残りは、取扱量よりも重要な何かに使いたい」と彼は言った。「非再帰の規則です」
書き手が、言語がすでに起きたことを直せると信じる者の浪費ではなく、生業として野帳を記録する者の倹約で書いたという意味の薄さだった。
イマニは野帳の人だった。ここでさえ、イマニが二十六で死に、もう何も書くことのないこの時間線でさえ、マレンはそれを知っていた。イマニは、ある人が早起きだったり左利きだったりするのと同じやり方で野帳の人だった。選択ではなく、向きとして。彼女のノートは精確だった。彼女の余白は清潔だった。正しい静けさの中に立てばマレンがいまも聞くことのできる電話で、彼女は一度マレンに言った。たいていの書きものの問題は、人が見たものを言う代わりに感じたものを言おうとすることだ、と。「感情は当てにならない証人よ」とイマニは言った。「潮は、あなたがそれを悲しんでいることなんて気にしない。それが何をしたかを書き留めて」
潮。十四B分岐。海の。沿岸の。低い分かれ目。
手は震えた。それでも署名は判読できた。十分な事務所で十分な書類に署名してきて、残りの自分がどこか別の場所にいるときでも筋肉の記憶を保っている者の、あの特有の判読可能さで。使ったペンは彼女自身のもので、蓋を噛んだボールペンを、見もせずに引き出しから引き抜いていた。そしてマレンはその噛まれた蓋を、様式には載っていないが様式に隣接するあらゆる小さな細部を記録するのと同じやり方で記録した。書き留めずに、忘れずに。
マレンは署名に立ち会った。書記官の行に押印した。彼女は桃色の控えを、三枚複写が受付の窓に達するまで住んでいる鞄の内ポケットに綴じ、エレナに白を渡した。
「黄色は分岐の保管用です」とマレンは言った。「何もなさる必要はありません。もう処理済みです」
彼女の鉛筆は手ではなく鞄の中にあり、署名の欄が埋まっているべき様式の上の不在に気づくのと同じやり方で、彼女はその不在に気づいた。むず痒い未完として。彼女はケイトに、照合済みの一文の後半を、継続時間の推定と、苦悶の徴候に先行する意識消失についての部分を、判が書類挟みを閉じるやり方でその話題を閉じたであろう部分を与えることもできた。彼女はその後半を、それ以前に十六度与えていた。全体の答えより一度少なく。一度だけ、口がそれを形にできなかったからだ。
その十六度はうまくいった。受取人が訊くのをやめ、様式に署名し、マレンを帰らせたという意味では。ケイトはまだ彼女を見ていた。待ちながら。卓の上の茶の輪が、二人のどちらも綴じなかった二つ目の文書のように、二人のあいだにあった。
「わたしは規定どおりに答えます」と彼女は言った。「それができる自分が嫌です」
一度も配達したことのない区の住所だった。
分岐の表記は十四Bとあった。つまり分かれ目の出来事は同じもの、同じ沿岸の幹線道路、同じ夜、同じ分類だった。海の、沿岸の、低い分かれ目。二つの様式。二人の受取人。一つの分岐。局の綴じの仕組みはそれらを無関係として扱った。受取人が無関係だったからで、それが局の無関係の定義だった。姓を共有しない、住所を共有しない、配達の承認の欄に血縁の主張がない。
「付随の相互参照」とマレンは言った。「印を付ける。照合が解く。先へ進む」
その家は淡い黄色の平屋で、玄関先の張り出しが、開いたまま置かれすぎた本のように真ん中でたわんでいた。庭の水撒き管が正面の段に巻かれていた。呼び鈴は働かなかった。マレンは叩いた。
ダイアン・ハートウェルは、上履きと、外の世界のために身なりを整えるのを近い過去のいつかにやめ、それを再開するかどうかまだ決めていないことを示す上着で扉を開けた。髪は洗われ、後ろで束ねられていた。彼女の顔は、泣いたあとに落ち着く空白を担っていた。泣いたことがまだ家の中の天候であるだけ最近で、痕跡を残しているほどには最近でない空白を。
「届かぬ慰めの局の者です」マレンは、青い印章と、蛍光灯の下で構えを取らされ笑うなと指示された誰かの写真の入った、被膜を掛けた名札を掲げた。「お届け物があります。入ってもよろしいですか」
彼女はそれを閉じた。何か月も前に印を付け、一度も記入しなかった局の内部網の雛形の綴りから、十二F号抵触免除を開いた。雛形は上部に灰の階調の局の印章を伴って読み込まれ、様式の欄が待ち、提出する書記官の氏名と記された最初の枠で合図が明滅していた。その下で、さらに六つの欄が局の辛抱強い灰色で待っていた。隔離された当事者との関係。発信分岐。抵触の性質。免除の承認(略署)。局長の連署(保留)。効力発生日。彼女はそれぞれを二度読んだ。配達の前に経路の書面を読むやり方で。行動の前の照合として。六つの欄。六つの行。彼女が持っているものには足りず、彼女が打ち込む気のあるものには十分すぎた。住まいは静かだった。蛍光灯のうなりはない。館内音楽もない。あるのはラップトップの送風と、壁越しの隣家のテレビの、こもった音だけだった。
彼女は自分の名前まで進み、そこでラップトップを閉じた。画面が暗くなり、半秒のあいだ彼女の顔がそこに映った。四年前の名札の写真の顔が。
その受け皿は記録課の主の机の外の壁に掛かっていて、血縁の系列の閲覧の返却、時間線間の経路づけ、局長専用と記された差込口があった。マレンは綴りを血縁の系列の差込口へ滑り込ませた。それは紙が紙に落ちる音とともに落ちた。彼女は受領を待たなかった。受け皿は何も与えなかった。それは受け取る。それだけだった。
六階で、レナータが法令遵守課から顔を上げた。「何か読んできた顔をしてる」
四時に通達が届いた。「様式、七C制限抽斗へ返却。保管の連鎖、閉鎖。書記官オコイェ、毎週の抵触の検討を義務として通常の勤務を認める」
毎週の抵触の検討。ハルストロムの版の綱だ。その面会のたびに彼女は法令遵守課の向かいに座り、近接と、血縁の系列と、制限への接近と、経路づけの正確さを損ないうるあらゆる苦痛について答えることになる。彼らは、その様式の夢を見るか、昇降機の操作盤で手が止まるか、ありふれた経路がいまでは私的な帯電を担っていないかを訊くだろう。点検表はどの問いも客観的と称するだろう。彼女の答えはいいえだろう。