もうひとつの合唱

〈もしも〉シリーズ

もうひとつの合唱

沈黙のなかの真実を聴き取れるのは、第二聖歌隊だけ。閂の下りた扉の奥で指揮者が死んだ夜、ひとりの歌い手の沈黙が、安堵の音を立てていた。

刊行言語 English

物語

この一冊で待つもの

冬のブルージュ。薬剤師ナディア・フェルフーヴェンは、聖アラール第二聖歌隊のアルトを率いている。この聖歌隊の歌い手たちは、互いが隠しているものまで聴き取ってしまう。

非公開の録音の最中、冷酷きわまりない指揮者がフレーズの途中で崩れ落ちた。譜面台に残された一枚の書き置きがその死を単純なものに見せかけ、警察は早々に捜査を閉じる。

ナディアには閉じられない。倒れた直後の静寂のなかに、悲嘆を、恐れを、嫉妬を、そして一音だけ明るく響いた安堵を聴いてしまったからだ。マイクは何ひとつ捉えず、法廷が認めるはずもない。だから、その残響を追う。ほころびたアリバイ。休符が脅迫文のように読める楽譜。

手がかりがひとつ増えるごとに、輪は信頼してきた歌い手たちのまわりで狭まっていく。沈黙を証拠に変えられなければ、あの死は閉じられた書類のまま。変えられたなら、真実は、ナディア自身がなぜ公平ではいられなかったのかまで暴き出すだろう。

耳を澄ますことと権力、そして「聴かれること」と「暴かれること」の危うい隔たりを描く、文芸密室ミステリ。

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選び抜いた一節

作品の声と感情の引力が伝わりながら、すべてを変える転換点は明かさないページを選びました。

第一章 沈黙 · page 1 of 10

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マールテンは指揮台に戻り、もう一度ナディアを見た。その視線の何かが、半拍だけ長く留まった。承認だ、と彼女は自分に言い聞かせた。そして指揮者からパートリーダーへの。それ以外の何でもない。

「休符が全パートで清潔になるまで冒頭を通す」彼は列を一つずつ順に見た。 「ソプラノ、アウフタクトでアルトと競うな。テノール、天井の下に留まれ。バス、おまえたちの沈黙を聴くか、おまえたちの後任を聴くかだ」

クララの口元が引き締まり、エルスは楽譜を、それが街から出る地図であるかのように見つめた。ウィレムの顎が動き、ナディアはフォルダーを上げて黙って数えた。一、二、用意。

作品情報

シリーズ
〈もしも〉シリーズ
入手状況
刊行言語 English
言語
日本語
出版社
LPH98.lifestyle
著者
L.P.H. Nordhaven
読む順番
一冊で完結する小説