墨を読む者

〈来歴〉シリーズ

墨を読む者

写された頁はすべて、それを書いた手を覚えている。いまだに書くことをやめていない手もある。

制作中

物語

この一冊で待つもの

敦煌の石窟にある静かな書庫で、マイレは最後の墨読みトゥルスンジャンのもとで修業している。仕事は厳密だ。巻物を一本だけ開き、墨の跡をたどり、声に出して読み、待つ。留められた手が筆を放せば、巻物は乾かされ、綴じ直され、棚へ戻される。

四百八十九人の書き手が筆を放した。ひとりだけ、まだ放していない。

最後の巻物には、トゥルスンジャンも敗れた。マイレの前にそれを読んだ者は、読みながら死んだ。その人は母ディララだった。母の筆はいまも石窟で、終わることを拒む一行に支えられたまま、待っている。

近づくために、マイレは悲しみを見世物にせず、愛を力ずくに変えてはならない。もっと時間を求める手と、別の読み方を求める手。その違いに耳を澄ませなければならない。

一枚の頁は、人を閉じ込められる。彼女を解き放つには、何が必要なのか。

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作品情報

シリーズ
〈来歴〉シリーズ
入手状況
制作中
言語
日本語
出版社
LPH98.lifestyle
著者
L.P.H. Nordhaven
読む順番
一冊で完結する小説